「論点整理」について

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「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理」が出された政治環境

「論点整理」について

日本へのIR・カジノの導入を実現するために対策が必要な課題として、ギャンブルへの「依存」の問題があります。2016年12月に国会で行われた「特定複合観光施設区域の整備に関する法律」(通称「IR推進法」)に関する国会審議では、日本には競馬、競輪、競艇(モータボート)、オートレースといった「公営競技」と、法的には「遊技」とされている「ぱちんこ」(パチンコ・パチスロ)への「依存」の問題がすでに存在し、カジノへの「依存」問題だけでなく、これら既存の「ギャンブル等」への「依存」問題への対策を講じることが必要であると指摘されました。審議の過程で、参議院内閣委員会では12月13日付で、既存の「ギャンブル等」への「依存」問題対策を講じることを明記した「附帯決議」が採択されています。16項ある「附帯決議」の条項のうち10項目がそれにあたり、次のような表現となっています。

「ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること。我が国におけるギャンブル等依存症の実態把握のための体制を整備し、その原因を把握・分析するとともに、ギャンブル等依存症患者の相談体制や臨床医療体制を強化すること。加えて、ギャンブル等依存症に関する教育上の取組を整備すること。また、カジノにとどまらず、他のギャンブル・遊技等に起因する依存症を含め、ギャンブル等依存症対策に関する国の取組を抜本的に強化するため、ギャンブル等依存症に総合的に対処するための仕組・体制を設けるとともに、関係省庁が十分に連携して包括的な取組を構築し、強化すること。また、このために十分な予算を確保すること。」

この「附帯決議」を受けて政府は、「IR推進法」が公布されたのと同じ12月26日に、菅義偉内閣官房長官を議長とし、関係閣僚によって構成される「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」の初会合を開催しました。そして2017年3月31日に開催した2回目の会合では、「これまでの検討整理を整理し、ギャンブル等依存症対策の現状と課題を明らかにするものであり、今後、各課題の検討を進めて具体的対策を立案していくための『第一段階の取りまとめ』」として「ギャンブル等依存症対策の強化に関する論点整理」(以下「論点整理」)を公表しています。ここでは、①2016年度から2017年度の2年間をかけて実施されている「ギャンブル等依存症」に関する実態調査において2016年度中に得られた予備調査についての報告、②公営競技とぱちんこのそれぞれの業界において実施されている「依存症」対策についての取組の現状と今後の課題、③医療による治療体制と、精神保健福祉センターや自助グループなど民間団体による回復支援施設についての論点整理、④学校教育と消費者行政、金融機関による取組の検討、の以上4点について記載されています。

ツイッターやブログなどを見ていると、「論点整理」についてのパチンコ業界およびファンからの反応は、「出玉規制の基準等の見直し」と「出玉情報等を容易に監視できる遊技機の開発・導入」という、「射幸性の抑制」を目的とした政策について懸念するものがほとんどとなっているという印象を受けます。「射幸性の抑制」は、ぱちんこ産業を所管する警察庁がその統治において根幹としてきたものであり、その延長線上に「論点整理」が位置づけられているのです。

「射幸性の抑制」という『各論』について、その政策としての妥当性を論じるつもりはありません。本稿では、「論点整理」が政府より出された政治環境について、私見を書かせていただきます。それは「論点整理」の出された『順序』と『スピード』、そして『提出者』の3点についてです。

まず、『順序』について。「論点整理」が実際に公表されるまではおそらく、政府は「IR推進法」の次に「ギャンブル等依存症対策基本法案」を提出するだろうと予想していた人は少なくなかったのではないかと思われます。実際、日本維新の会は2月の時点で早くも同法案の維新案を参議院に提出しています。ですが自民党と公明党は、「IR推進法」の成立直後から重ねてきた関係省庁や有識者へのヒアリングをもとにそれぞれの「論点整理」を準備し、それが政府の「論点整理」となって公表されました。

「ギャンブル等依存症対策基本法案」(以下「法案」)より先に「論点整理」が出されたという、この『順所』の意味を考える必要があるでしょう。「論点整理」の次には「法案」が出て来ます。「法案」より先に「論点整理」が出てきたのは、公営競技とぱちんこという「ギャンブル等」の所管省庁、医療・回復支援を所管する厚労省、学校教育を所管する文科省、消費者行政を所管する消費者庁、金融機関を所管する金融庁といった関係省庁が、「論点整理」に書かれた「課題」解決のための政策に乗り出して、「法案」の審議を乗り切ろうとしていると推測できます。しかも「法案」は、議員立法として提出されることが予告されています。議員立法であれば、内閣委員会での審議のみでのスピード採決が可能となります。「IR推進法」の5.5時間のみという実績と同じ経緯となると見込まれます。それでも、審議の過程で「突っ込みどころ」となる「依存」の問題に対して政府として積極的に、かつ多角的に取り組む姿勢を示しておこうという意図を、この「論点整理」から読み取ることが可能です。

次に『スピード』についてです。「論点整理」公表は、昨年末に「IR推進法」が可決施行されてから、わずか3カ月しか経過していない時期に行われています。その間に、関係省庁と有識者へのヒアリングが行われました。この早さには驚かされます。菅内閣官房長官は、「論点整理」を公表した3月31日の記者会見で、次のように話しています。

「今後これ(「論点整理」)を踏まえ、具体的な対策やその実施方法についてさらに検討の上、本年夏を目途に取りまとめをする予定であります。具体的には、特に公営競技やぱちんこにおいて、本人・家族申告によるアクセス制限、簡単にお金を賭けられるインターネット投票での対応、遊技機の射幸性抑制、こういったことについて早急に具体化し、実現していかなければならない旨、指示したところであります。」

この記者会見で言及された「本年夏を目途に取りまとめをする」ものが具体的に何を指すのかは明らかではありませんが、夏までの限られた時間で、「論点整理」の多くの内容が「具体化し、実現して」いくことが目指されています。ぱちんこ業界は、「検定機と性能が異なる可能性のある遊技機」の問題(「遊技くぎ」問題)に2015年の年初から2016年の年末まで丸2年間を費やしました。ですが政府は、この「ギャンブル等依存症」の問題では、これまでとは次元の異なるスピードでの対応をぱちんこ業界に求めていると言えるでしょう。

最後に『提出者』についてです。「論点整理」は、内閣官房長官を議長とし、関係閣僚によって構成される「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」によって提出されました。つまり、日本政府の最高レベルから出されたと言えます。現場への直接指導は、これまでのぱちんこ行政と同じく警察庁生活安全局保安課という担当部局を通して行われるでしょうが、その背後には日本政府の意思とスケジュールがあるということです。「論点整理」の目的は、政府が成立を目指す「ギャンブル等依存症対策基本法」とIR・カジノ実現のために必要となる次の「IR実施法」の成立です。「IR推進法」では、政府はIR・カジノを推進していくうえで「必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない」と定めています(第五条(国の責務))。「必要となる法制上の措置」を盛り込んだ法律が、「IR実施法」と暫定的に呼ばれているものです。「IR推進法」の施行から1年後となる2017年の年末に向けて、乗り越えるべき最初の課題が「ギャンブル等」への「依存」の問題であり、遅滞は許されない状況です。

「論点整理」は、以上のような政治環境のなかから出てきた文書であると言えるのではないでしょうか。そこに記載された政策課題は、政治環境の影響を受け、「関係行政機関が緊密に連携し、政府一体となって包括的に対策を推進する」という方針が示されました。ぱちんこ業界は、警察庁という直接の所管官庁だけでなく政府の動向にも、細心の注意を払っていく必要があるでしょう。

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